千と千尋の神隠しのテーマ「本当の名前をとり戻す」
千と千尋の神隠しにはスピリチュアルで宗教的な要素がちりばめられています。
そのうちの一つに「名前」があります。
異次元の世界に迷い込んだ千尋。ハクがこう言います。
「湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ
普段は「千」でいて本当の名前は隠しておくんだよ。」
ハクもまた本当の名を湯婆婆に奪われ、元居た世界への帰り道がわからなくなっているのでした。
名前とはいったいなんなのか
名前。人間の社会にだけ存在するもの。記号。
動物の世界に「言葉」も「名前」もありませんし、当然植物の世界や鉱物の世界にもありません。
人間だけが言葉を使い、それぞれを区別するために名前をつけます。
自分と他の存在を区別するものが名前。周りに存在する動物やら植物など、それぞれを「分けて」「区別する」役割もあります。
例えば「木」。木自身は自分が「木」という名前だなんて知りません。
木もいろいろ種類がありますが、松にしても杉にしても、自分が松という名前なのか杉という名前なのかそんなことは考えたこともないでしょう。
ただ松は松としての杉は杉としての「いのち」を生きている。
種から根が出て、芽が出て、葉っぱが茂り、茎がだんだん太くなり木の幹になり、果実ができて種ができて・・・・という現象を言葉で表せるのは人間だけです。
周りの物ごとや現象、心の動きや心情などを誰かに伝えるにはそれぞれを区別することが必要で、意思疎通ができたかどうかはその言葉なりを理解する「共通認識」があって初めてお互いに通じ合えたということになります。
前置きが長くなりました。「名前」ですね。
1.「役職や役割としての名」、2「氏名は使命=本当の名」に通じる
1.「役職や役割としての名」社会という「カタチ」「枠組み」「その文化の有する価値観の中」で生きていくためのもの。
「湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ
普段は「千」でいて本当の名前は隠しておくんだよ。」
私たちの人間社会では、役割や役職で呼ばれることが普通ですね。
例えば〇〇先生、△△部長、××教授・・・など。
なかには●●ちゃんママ、▲▲さんの奥さんという風なのもありますね。
子どものころから慣れ親しんだ下の名前で呼ばれることよりも、名字や役職で呼ばれることの方が圧倒的に多いです。
また自分には特に社会で評価されるような大した役職がないという場合。それはそれで役職のある人のほうが立場が上のように感じ、始終気を使わないといけない息苦しさのようなものも感じることもあるかと思います。
本来ならば役職で人の価値が決まるわけでもないのに、「社長」や「教授」は偉く見えてしまう。
それから姓、名字もある意味「役割」を表していて、昔は職業名や地名をそのまま姓として使っていたということもあり、その家族の役割としての顔を社会に向けているともいえるのかと思います。
千尋は異次元の世界「湯屋」で、湯婆婆に名を奪われ「千」として働くこととなります。
「千!」と呼ばれ返事をする千尋ですが、何度もそう呼ばれるうちに「千」になっていくのですね。「千尋」という本当の名を忘れかけていきます。
湯屋で「千」として働くことと、私たちが人間社会で「〇〇先生」とか「▲▲さんの奥さん」などの社会の中の役割としての自分を生きることとが重なります。
役割として生きてもらうためには、本当の名、つまりその人自身の使命やらなんやらがあっては困るのです。
私は私の人生を生きる!なんて言われると支配できません。
だから本当の名を奪い、使命を忘れさせ、役割の名がその人自身であるかのように人格までをも支配していくのですね。
2「氏名は使命=本当の名」に通じる
※忌み名、諱(いみな)英語では true name と言いますが、普段呼ばれる名前とは別に「真の名」が人にはあり、それを誰かに呼ばれると支配されてしまうという考えが昔からあるようです。
関連サイト>>>>https://ja.wikipedia.org/wiki/諱
私たちは生まれてすぐに「名前」をつけられます。
名づけをする両親はその子の人生、その子の将来を真剣に考え、何がその子とって一番幸せなのか、どういったことが幸せにつながるのかなどいろんな思いを巡らせることでしょう。
姓の方は結婚して変わることもありますが、下の名前はほとんどの場合生まれてから死ぬまで一生を共にするものです。
人が生まれて、生きて、死ぬ。
その子だけの生き方、その子だからこその生き方。
「名前」というとっても短い言葉の中には「他の誰でもないあなた自身の人生を幸せに生きてほしい」という祈りが込められています。
赤ちゃんの名前を考えるとき、ここまで大げさな思いを抱かないわ、という人が多いかもしれませんが、自分で思っているよりずっと真剣に考えている場合が多いと思いますし、あれこれ考えず一瞬のインスピレーションでぴったりの名前が浮かんだなどという場合でも、深い愛がそこにあることには変わりません。
それからこれは信じる人、信じない人がいるでしょうが、生まれる前に赤ちゃんが自分の名前をすでに決めていて、それを一生懸命テレパシーで両親に伝えているという話もあります。
私はこれはあり得ることだと思っています。
名前は氏名=使命ということを考えると、使命というのは「この人生で成し遂げること」であり「神さまの意思でつかわれること」という意味があるからです。
人間に「使命」というもの、つまり目に見えているこの人間社会だけが唯一存在しているということではなく、それを超えた次元の存在があり、人間一人ひとりがその人にしかできない「使命」を持って生まれてくる。
このような視点で考えると生まれる前の赤ちゃんが自分の「使命」を知っていて、それをぎゅっと凝縮させた表現である「名前」をすでに決めているという考えはあり得るのではないかと思うのです。信じる信じないは自由ですが。
千と千尋の神隠しに戻りますが、異次元に迷い込んだ者は「本当の名」をちゃんと覚えておかないと元の世界に戻れません。
ハクは本当の名を奪われたため帰り道がわからなくなりました。湯屋では「ハク」という「役割」つまり湯婆婆の手下として働いています。
ハクの元いた世界と千尋が元いた世界はどうやら同じ三次元の私たちが住んでいるのと同じ世界のようです。しかしハクは人間ではなく「川」として存在していたのですね。
終盤のクライマックスシーンで、千尋が小さいときに川に落ちたことを打ち明けます。それがきっかけでハクは自分の本当の名が「ニギハヤミコハクヌシ」であることを思い出します。
千もまたもといた世界に戻り、今度は千尋として生きる力を存分に発揮しながら、しっかりと地に足つけていきいきと生きていくでしょう。
「湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ
普段は「千」でいて本当の名前は隠しておくんだよ。」
ハクのセリフを私はこのように解釈しています。
「この社会で生きていると役職とか役割とか、社会で求められる自分を演じないといけない。そうするとまるで役割がもともとの自分かのように感じるようになってしまう。
普段はそうやって役割を生きていくことが、難局を乗り切るためには必要であっても、本当の名前、あなたの使命、あなたがあなたであることを忘れずにね。元いた場所に戻るというのは、本来あなたがいるべき場所、あなたがあなたとして生きていく場所、そこで地に足つけて自分の人生を生きていくということだから。」
名前が重要なキーワードとなる映画
千と千尋の神隠しのほか、ジブリでは「名前」「本当の名」が重要なキーワードになる映画が多いですね。
天空の城ラピュタ→シータの本当の名
かぐや姫→成人のお祝いのため名づけしてもらう
ゲド戦記→真の名が重要テーマ
他、ジブリではないですが「君の名は。」も映画全体を貫くテーマが「名前」であります。
以上「本当の名前を思い出す~千と千尋の神隠し」でした。
サイト内の関連記事はこちら
>>>>千と千尋の神隠し。カオナシの抱える苦悩・スピリチュアルペインとは。
>>>>かぐや姫の抱えるスピリチュアルペイン。ジブリ映画「かぐや姫の物語」
>>>>かぐや姫の物語「わらべ唄」「天女の歌」にみられる神秘性とスピリチュアリティ
以上読んでくださりありがとうございました。
千と千尋の神隠し [DVD]